今回は、Singapore Press Holdingsのビジネスと、その再編について書きたいと思います。
SPHと呼ばれるこの会社は、シンガポール最大手の新聞社であり、複合メディア企業です。
最も有名な英字紙Straits Timesのほか、Zaobao(中国語)、Berita Harian(マレー語)、Tamil Murasu(タミル語)など各公用語で新聞を発行しています。これ以外にも、ライフスタイルや健康など多様なジャンルの雑誌・書籍を発行し、ラジオ局も多言語で運営しています。近年では、紙媒体の新聞・雑誌・書籍のみでなく、デジタル版の発刊にも力を入れています。
ところが今月初旬に、事業再編によりメディア事業がSPHから切り離されるとのニュースが入ってきました。
新聞記事(これ自体がStraits Timesの記事なのですが)によると、すべてのメディア事業がSPHから分離され、ジャーナリストや編集者など約2,500名の従業員、子会社、関連資産とともに、SPH Media Trustという保証有限責任会社(CLG)に承継されます。(CLGは多くの場合、公共的或いは非営利の活動を行うために組織される団体で、事業活動から得られる利益は配当されず、内部留保・再投資されるようです。)
SPHの主要事業であるメディア事業をすべて外部に切り出すドラスティックな改革であり、大きな話題を読んでいます。
この背景には、デジタル化の進展と若者のマスメディア離れがあるようです。FacebookなどSNSを使いこなす若者世代は、もはやTVや新聞のような古いメディアを選ばず、企業の広告宣伝費もソーシャルメディアに重点的に投入されるようになっています。
過去5年間の推移を見ると、SPHの株価は一貫して下落基調です。収益力が徐々に低下するなかで、昨年度はコロナ禍による広告収入の減少もあり、メディア事業は直近の2020年8月期(通期)決算で$11.4 millionの赤字を計上するに至りました。
ジャーナリズムには普遍的な価値があり、信頼される報道機関として、正確な情報を取材・編集して読者に届ける機能は守っていく必要がありますが、事業採算性が悪化するなかでどう長期的に経営を成り立たせていくのか、シンガポールに限らず世界中の大手メディアが同じ問題に直面しています。
このような状況でSPHは、メディア事業を上場会社から切り離し、非営利の会社形態に置き換えるという結論を出したようです。今後は、デジタルコンテンツの拡充に加えて、データ分析を駆使して消費者(読者)の嗜好性を把握し、メディア事業を抜本的に作り変えていくものと思います。
下記の記事にて、新しくSPH Media TrustのChairmanに就任するKhaw Boon Wan氏が、詳細を語っています。
SPH Mediaをめぐる再編については概ね理解したところですが、そうなると、SGXに上場しているSPHには何が残るのでしょうか。Straits timesの記事はこれについてあまり詳しく述べていません。
もともとSPHは多数の不動産を所有・運営しており、かなりの事業規模があります。SPH REITを通して所有するオーチャードのParagon、Clementi Mallは有名なところですし、星国内のみならずオーストラリア、英国、ドイツにも、住宅や学生寮などの資産があります。また、医療やエイジングケア領域のビジネス創造にも取り組んでいるようです。
昨年度の決算資料のうちGroup Segmental Informationを見ると、Mediaセグメントの収入$445 millionに対して、Property(不動産)セグメントは$327 million、Others(その他)セグメントは$93 millionとなっています。SPH Mediaを切り出した後にも、半分程度の売上規模が残る計算になります。
不動産セグメントの収益性に関しては、Segment Resultで$213millionの黒字が計上されています。(多額の評価損計上により最終利益は赤字ですが、営業利益ベースでは黒字を確保しているようです。)
別の資料では、現在の従業員数は3,600人余りと記載されています。報道では、メディア事業の従業員約2,500名が移籍するとの情報でしたので、SPHに残るのは1,100名程になりそうです。
今後、SGXに上場するSPHは、不動産を中心とする関連事業の収益性を磨きながら、成長を目指していくことになるのでしょうか。
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